
地球・天体観測技術実証衛星「TSUBAME」は,第12回衛星設計コンテストで設計大賞を受賞した ”偏光X線観測衛星「燕」” のコンセプトのもと,これまでのCuteシリーズの開発・運用経験から得られた知見を反映させることで誕生した衛星です.本衛星が目指す目標は,以下の3つです.
- 挑戦的な先端ミッションの早期実証
- 超小型CMGによる高速姿勢変更技術の実証
- 超小型光学カメラによる高分解能撮像の実証
- 超小型衛星による宇宙科学分野での成果獲得
- X線偏光観測装置を用いたガンマ線バーストの観測
- 高機能小型衛星バスの開発技術の獲得
- 参画機関との技術協力関係の構築
- ポイントを押さえた信頼性確認方法の確立
- (高速姿勢変更+高精度観測)用衛星バスシステムの提供
これらの目的には,「低コスト・短期間開発という超小型衛星の特長」を生かすことと共に,今後の超小型衛星開発をさらに発展させていくための重要な要素が集約されています.そして,この挑戦的な先端ミッションとして,TSUBAMEでは,「コントロール・モーメント・ジャイロ (CMG)」と呼ばれる姿勢制御装置を用いた姿勢決定制御技術の実証を行います.
コントロール・モーメント・ジャイロ(CMG)とは,回転する円盤(フライホイール)の力を利用して,国際宇宙ステーションのような大型の宇宙機の姿勢を制御する姿勢制御装置です.TSUBAMEでは,このCMGの力を超小型衛星に適応することで,大型衛星では実現困難な高速姿勢変更を実現します.さらに,CMGによる迅速な姿勢変更を利用したミッションとして,「超小型光学カメラを用いた可視地球観測(工学ミッション)」および,深宇宙で起こる天体の突発的爆発現象である「ガンマ線バーストの硬X線偏光観測(理工学融合ミッション)」を実施します.
地球・天体観測技術実証衛星「TSUBAME」では,CMGによる迅速な姿勢変更を利用して,以下の2つのミッションを実施します.
[1]可視地球観測ミッション(一点継続指向撮影,パノラマ撮影)
TSUBAMEでは,民生用汎用レンズや民生用イメージセンサを効果的に活用した汎用性の高い超小型光学カメラシステムを開発し,図 1に示すような長時間の定点撮影や多点の連続撮影による地球観測を行います.開発する小型の高解像度カメラシステムでは,ピクセル解像度4秒角,分解能10秒角の超小型光学カメラを搭載することで,高精細な画像を取得します.また,CMGを用いた高速姿勢変更を利用して,一度に多くの観測地点を撮影することで,広範囲の情報を取得することができます.


[2]ガンマ線バーストの硬X線偏光観測
ガンマ線バースト(GRB)とは,観測可能な天体中で最も明るい物理現象であり,この内部構造や発生原理を詳しく調べることで,宇宙創成のメカニズムの解明に大きく寄与できると考えられています.ところが,このガンマ線バーストは,発生場所の特定が困難であり,初期放射の継続時間が数秒から数十秒と非常に短時間の現象です.このため,姿勢変更に1分以上の時間がかかってしまう大型衛星では,初期放射に対するポインティング観測が非常に難しいという現状があります.そこでTSUBAMEでは,図2に示すようなシーケンスに沿って,突発天体を自ら検出し,CMGを用いた高速姿勢変更を行います.そして,ガンマ線バーストの発生から15秒以内に偏光観測を開始します.

図2 ガンマ線バースト観測のシーケンス

図3 TSUBAMEプロジェクトにおけるサクセスレベル